研究課題
近年、カスパーゼが細胞死実行以外にも多彩な生理機能をもつことが明らかにされてきているが、この細胞死に関与しないカスパーゼ活性化の調節メカニズムは明らかになっていなかった。そこで我々は、DmIKK_εがDIAP1レベルを調節することによってカスパーゼ活性を制御し、結果として細胞死以外の生理機能を発揮させる可能性を検討した。細胞死に関わらないレベルのカスパーゼ活性は高くはなく、通常の抗活性化カスパーゼ3抗体を用いた免疫組織では検出が難しい。そこで、我々は非常に感度良く生体でのカスパーゼ活性を検出するFRETを用いたプローブSCAT3を開発し、このプローブを用いて生体でのカスパーゼ活性化状態を詳細に観察した。その結果、多くの組織で低レベルのカスパーゼ活性が観察された。DmIKK_εノックダウンによってこの低レベルカスパーゼの活性化はほぼ完全に抑制されたことから、DmIKK_εは細胞死刺激によらないカスパーゼ活性化調節に関わる分子であることが明らかになった。これまでの研究から我々は外感覚器を生み出す感覚器前駆細胞の数の調節が、カスパーゼに依存した細胞死実行に関わらない機構によってなされていることを明らかにしていた2)。DmIKK_εノックダウンを用いた実験で、感覚器前駆細胞数はDmIKK_εが調節するカスパーゼ活性によって決定されることが明らかになった。今回の研究によって、1)低レベルのカスパーゼ活性化は様々組織でおこっていること。2)細胞死以外の生理機能に関わるカスパーゼ活性化調節は、IAPをリン酸化して分解促進をするキナーゼIKK_εによってなされること。3)この仕組みによって感覚器前駆細胞数が決定される。ことが明らかになった。神経変性疾患では神経の機能障害が長期にわたって続くアポトーシスとは異なった障害を持つことが示唆されている。実際にHintingtinはカスパーゼによって切断されることが晩発性発症に必要なことが示唆されているが、この場合もHintingtin切断は神経細胞死のかなり前から観察されることから細胞死に至らないカスパーゼの活性化が神経変性の初期に関与することは明らかである。IKK_εによる内在性カスパーゼの活性化調節と神経変性の関与に興味が持たれる。
すべて 2006
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