本研究の内容は大きく3つに分けられる。 (1)高速AFMの性能を生物試料の観察に実用できるレベルにまで向上させるためのデバイス開発研究 (2)生物分子モータのナノ機能動態撮影(装置完成までは装置の問題点を見出すことが主な目的) (3)タンパク質の動態撮影に適した基板の開発 (1)デバイスの開発:高速走査と探針・試料間相互作用力の軽減を両立させるために、(a)カンチレバーの光励助振・駆動法、(b)フィードフォワード制御法、(c)ドリフト補償法、(d)高速位相検出法、(e)高速スキャナー、などの開発を行った。(a)カンチレバーを光で直接励振して励振スペクトルを単一スペクトルにすることができるようになった。光吸収による熱膨張過程は遅いが、逆伝達関数位相補償により、高速化を実現できた。また、Zスキャナーの代わりにカンチレバーを光で変位させて探針・試料間の高速距離制御も可能になった。(b)フィードバック制御は「後追い制御」であるため遅れるが、フィードフォワード制御を導入することでこの遅れを縮小した。1ライン走査毎にフィードフォワード制御できる回路を開発した。(c)カンチレバーの励振効率のドリフトを、カンチレバーの2次共振振幅を一定に保つように励振信号発生回路のゲインにフィードバックを掛けることにより、補償することに成功した。サブナノメータの安定性が実現できた。(d)カンチレバー振動の位相を高速に検出できる回路を開発した。探針・試料間相互作用に対して、位相は振幅よりも5倍ほど感度が高く、それ故、相互作用力の軽減化が図れた。また、高速物性マップ撮影も可能になった。(e)Zピエゾの共振周波数の低減を抑えるために、色々な固定法やアクティブ制御法を試みた。 (2)バイオイメージング:アクチン-ミオシンV系、GroEL-GroES系、ダイニンCを中心にイメージングを行った。アクチン-ミオシンV系ではステップ変位に対応すると思われる動態を控えることができた。GroELのATP結合に伴う高さの変化やGroESの結合の動態をイメージングできた。 (3)基板の開発:合成高分子の電子線シャワーによる基板への固定、金蒸着、LB膜、リポソームの基板への展開などの手法で基板表面の改質を行った。これらの内、LB膜、リポソームの展開が、基板の平滑性、タンパク質の特異的固定の点で、最も有力であることが判明した。
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