ダイナミクスはタンパク質の重要な属性のひとつである。タンパク質分子機械の機能は、ダイナミックな構造変化と他の分子とのダイナミックな相互作用によって生ずる。様々なタンパク質がある中で、力と運動の発生を担うモータタンパク質は、ダイナミクスそのものが機能とも言えるタンパク質であり、ダイナミクスの解明が機能メカニズムに直結する。一方、超えがたい技術的困難により、タンパク質の機能メカニズムの解明において最も不足している重要な情報もダイナミクスである。その技術的困難を打破して、高い空間分解能と有効な時間軸を併せ持つ新しい顕微鏡を開発する必要がある。本研究の目標は、第一に、我々が世界に先駆けて開発した第一世代高速AFMの性能をタンパク質のナノ機能動態を捉えられるレベルに向上させること、第二に、その性能向上により、モータタンパク質を中心にいくつかのタンパク質の機能解明に直結する映像データ得て、この新しい手法の有効性を実証することであった。この5年間にわたる研究により、上記の目標は十分に達成された。当初目指した装置性能の向上を果たすとともに、装置のオペレーションや試料側の工夫により、ミオシンVの歩行運動、GroEL-GroES間の反協同的相互作用といった生理機能動態を捉えることに成功し、それらの分子メカニズム解明に迫ることができた。また、タンパク質の機能動態ばかりでなく、タンパク質2次元結晶中の点欠陥の運動やタンパク質の非構造領域の可視化・同定といった従来の手法では扱えない問題にも適用できることを実証した。
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