研究概要 |
すでに我々は2,2',2"位に酸素原子を有するトリアリールメチル型4座配位子を用いた5-カルバホスファトラン1の合成、およびその環員数を拡大した類縁体である6-カルバホスファトラン2の合成に成功している。これらの化合物はアンチアピコフィリックな配座を有し、それに起因すると考えられる特徴的なスペクトル的性質(アピカル結合定数の異常増大)を示す。一方、6-カルバホスファトランの合成過程において、2,2',2"位がすべて炭素で置換されたトリアリールメチル基を有するホスホニウム塩3が生成するという結果を得た。このホスホニウム塩はエクアトリアル位が全て炭素原子でしめられたカルバホスファトラン、すなわち2,2',2",5-テトラカルバホスファトランの良い前駆体となると考えられる。3に対して過剰量のLiAlH_4を作用させたところ、定量的に1-ヒドロー2,2',2",5-列ラカルバホスファトラン4が得られた。4はテトラアルキルヒドロホスホランの初めての単離例である。4のX線結晶構造解析を行ったところ、ほぼ理想的な三方両錐構造をとっていることがわかった。またそのアピカル結合定数ば^1J_<PH>=273Hz、^1J_<PC>=20.9Hzと通常の値を示したことから、1や2で観測されたアピカル結合定数の異常増大はアンチアピコフィリックな配座に関連することを実験的に実証できた。さらに理論計算を用いることにより、両者の差は結合様式の差に起因していることが示唆された。4は空気中、室温で徐々に分解したが、これはP-H結合解裂により生じたホスホラニルラジカルを経由して進行したものと考えられる。4のようなテトラオルガノヒドロホスホランは一般に不安定であり、速やかにホスホラニルラジカルを生成するが、剛直な4座配位子を活用することにより、X線結晶構造解析を行う程度の安定性を付与させることに成功した。
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