分子一つ一つに光情報を記憶させる究極の光メモリ「単一分子光メモリ」の実現をめざし、高性能の光メモリ分子の合成と評価をすすめている。光記憶を担うジアリールエテン部、読み出し部を担う蛍光発光部の光耐久性の向上が、分子設計上最も重要な課題である。この課題に取り組むとともに、単一分子蛍光検出による光スイッチ挙動の計測、光耐久性の計測も開始した。 (1)アントラセンーアダマンチルー反応部位にメトキシ基を2個もしくは1個有するジチエニルエテンからなる3成分蛍光性ジアリールエテン分子を合成し、それをアモルファスポリオレフィンに極微量(10^<-11>M)分散し、単一分子レベルでの蛍光の紫外/可視光交互照射による光スイッチ挙動を計測した。ジアリールエテン部が開環体構造の分子を分散させた場合は、紫外光照射によっても約半分の分子しか光応答を示さなかった。これは、パラレルコンフォメーション分子が混在したためで、閉環体構造の分子のみを分散させると、すべての分子が光応答を示すようになった。メトキシ基の数により蛍光光スイッチ挙動が変化し、真の単一分子フォトクロミック光スイッチであることを確認した。単一分子レベルでの計測から、アントラセン部がジチエニルエテン部よりも早く光劣化することが認められた。 (2)蛍光発光部の耐久性を向上させる目的で、ペリレンーアダマンチルー反応部位にメトキシ基を2個もしくは1個有するジアリールエテンからなる3成分分子を合成し、同様に単一分子レベルでの光スイッチ挙動を計測した。2個のメトキシ基を含む分子では数回程度の光スイッチ応答しか認められなかったが、1個含む分子では100回程度の光スイッチ応答が認められた。単一分子蛍光計測の多数回解析により、ペリレン部は1000万回の光励起に、ジチエニルエテン部は100万回の光励起に耐えることが明らかとなった。十分光耐久性をもつ光メモリ分子を合成することができた。
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