研究概要 |
本研究は神経細胞や免疫細胞、粘菌細胞などの真核細胞にみられる走化性(化学走性)の細胞内情報処理メカニズムを解明することを目的とする。我々が開発してきた細胞内1分子計測法を用いて、化学物質の受容から細胞運動の制御にいたる情報処理過程を生きた細胞内で1分子イメージングすることにより、熱ゆらぎ(ノイズ)の影響を受けながら作動している情報伝達分子の振るまいを明らかにする。本年度は主に次の2点について明らかにした。 1.理論研究:細胞内のシグナル伝達過程にはノイズが伴うために、不規則なシグナルを解析するための体系的な方法論が必要である。そこで、工学などで使われるスペクトル解析法の適用を試みた。結果、入力信号(リガンド結合数)の周波数特性が明らかになり、受容体のランダムなオン-オフ2状態モデルで理論的に記述可能であることが分かった。また、Gain-fluctuation関係式[柴田-藤本(2005)]を走化性情報伝達系に適用することにより、シグナル時間積算および受容体オン-オフ転換による走化性シグナルSN比の向上機構について明らかにした。 2.実験研究:リガンド結合から細胞運動に至る情報伝達経路の細胞内1分子イメージングにより次の知見を得た。(1)三量体G蛋白質Gαβγの細胞質-細胞膜間シャトリングを見いだした。(2)仮足形成に重要なPHドメイン蛋白質の1分子イメージングにより、その細胞膜結合が細胞極性と関連して空間的に制御されていることを見いだした[Matsuoka et al.,(2006)]。(3)PTEN分子の細胞膜結合性が癌抑制作用に重要であることを明らかにした[Vazquez et al.,(2006)]。(4)神経成長因子受容体による情報伝達複合体形成の仕組みを明らかにした[Shibata et al.,(2006)]。
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