研究課題
本研究は、化学刺激の受容から細胞運動の制御にいたる走化性情報伝達過程を細胞内1分子計汎法により解析し、熱ゆらぎの影響を受けながらはたらく情報伝達分子の特性を明らかにするとともに、確率的情報処理の理論モデルを構築することを目的としている。(1)実験研究:走化性情報伝達ネットワークの細胞内1分子イメージング解析走化性情報伝達システムを構成する受容体、G蛋白質、PI3K、PTEN、PHドメイン含有蛋白質等の細胞内1分子イメージング解析を行い、キネティックパラメーター(リガンド解離速度、細胞膜滞在時間など)、拡散係数などを決定した。結果、各種情報伝達分子に多状態性が認められると共に、分子状態が細胞極性と関連して空間的に分離することが分かってきた。例えば、PTENの細胞膜滞在時間は細胞の前後で異なっており、同じ分子が異なる特性を示した。(2)理論研究:確率的情報処理の理論モデル構築受容体が環境からのシグナルを受け取り細胞内にセカンドメッセンジャーを生成するシグナル受容・伝達過程の確率論モデルを構築した。この過程におけるノイズの生成・伝搬について理論的に整理することによって、受容体の確率的な特性がシグナルのSN比にどのように寄与するのかを定量的に議論出来るようになった。この確率論モデルでは、シグナルの入出力関係だけでなく、シグナルとノイズ(SN比)の入出力関係を記述できる。この記述法を走化性情報伝達に適用したところ、これまで実験的に計測されてきた「走化性効率のリガンド濃度依存性・勾配依存性」「勾配閾値のリガンド濃度依存性」を説明することができた。1分子計測によって実験的に得られてきた走化性情報伝達分子の確率的特性・多状態性がシステムの情報伝達に与える影響について定量的に議論することが可能となるだろう。
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