研究課題
われわれ東京大学医学部人工臓器移植外科は、重症肝不全患者の治療法を開発する目的で、ブタ肝臓を用いた人工肝臓システムの開発や、血液透析濾過、血漿交換などの血液浄化療法の研究を行ってきた。しかし、ブタ肝臓には、異種への心理的抵抗などの問題があり、血漿交換には、医療資源の供給量の限界の問題がある。したがって、現時点では、血液透析濾過と、アルブミンや凝固因子などの有用ヒトタンパク投与を合わせた血液浄化療法が、最も実用的な治療法と考えられる。そのためには、有用ヒトタンパクの経済的医療資源的コストを下げることが重要な課題となるが、その方法としては有用ヒトタンパクを産生する形質転換ブタを作出することにより、異種疫学的、医療資源的問題がなく、安価で保存の効く肝不全の治療法を開発することが一つの将来性ある戦略である。そこで、ヒト血清アルブミン遺伝子とクラゲの発光遺伝子EGFPを連結した遺伝子pCX-HSA-EGFPを構築し、明治大学農学部生殖工学研究室との共同研究により、東京大学農学部付属牧場において、精子ベクター法を用いてこの遺伝子を導入した形質転換ブタの作出を試みてきた。平成15〜17年にかけて、東京大学農学部付属牧場及び明治大学附属養豚場において、蛍光により明瞭な発光を示す形質転換ブタの産仔が産まれ、皮膚及び全身臓器の遺伝子解析により、ヒト血清アルブミンとEGFPの遺伝子の導入と発現が認められた。その後、その形質転換ブタの体細胞から核移植胞により12匹のクローンブタを生産することに成功した。しかし、いずれも2週間以内の短命であったため、EGFPを入れず、ヒト血清アルブミンのプロモーターとcDNAを連結した導入用遺伝子を現在構築中である。このような形質転換ブタの系を樹立すれば、ブタの血漿分画製剤として安価に大量のヒトアルブミンが生産できる可能性がある。
すべて 2005
すべて 雑誌論文 (3件)
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