研究概要 |
本年度における研究では,IPネットワークのエンドホスト間で利用可能な帯域幅をリアルタイムかつ少ないオーバーヘッドで計測する方式を提案した.提案方式はTCPコネクションのデータ転送時に得られる情報に基づいて計測を行なうインラインネットワーク計測と呼ばれる方式であり,新たな計測用のトラヒックをネットワークに導入する必要がなく,かつ計測結果を素早く導出することが可能となる.本研究ではまず,インラインネットワーク計測を可能とするための条件である,(1)計測用パケット数が少ない,(2)他のトラヒックに影響を与えない,(3)素早く連続的に計測結果を導出可能,を満たす計測アルゴリズムを提案した.その後,提案したアルゴリズムをTCPに導入するための方式として,TCP層の下部にキューを設置し,TCPからIPにデータパケットが移動する際にパケット転送間隔を動的に調整することによって計測アルゴリズムを実現するImTCP方式を提案した.この提案方式はTCPの送信側だけを変更することで導入可能である.また,インライン計測機能を導入したImTCPには,アプリケーションが計測結果を適切なタイムスケールで獲得するための仕組みを導入した.さらに本研究では,インライン計測による利用可能帯域の計測結果を利用して,TCPコネクションそのもののデータ転送性能を向上させるための手法を示した. 提案方式の有効性はシミュレーションによって行った.シミュレーション結果から,インラインネットワーク計測を行うTCPがその転送速度を落とすことなく,数RTTに1回計測結果を高い精度で導出することが可能であることがわかった.また,計測結果をTCPコネクションそのものの制御に用いることにより,計測を行うTCPコネクションがネットワーク内の他のトラヒックにほとんど影響を与えることなくリンク利用率を高く維持し,従来TCPがネットワーク帯域を使いきれない環境において,従来TCPに比べて高いスループットを得ることができることがわかった. また,提案手法の実ネットワークにおける実装実験に際しては,学部4年の学生と協力してFreeBSDシステム上への実装を進め,計測アルゴリズムが実験ネットワーク上でシミュレーションによって得られているのとほぼ同等の性能を示すことを明らかにした.
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