研究概要 |
人間の皮膚下には二種類の受容器が高密度に存在する.それぞれマイスナー小体,メルケル細胞とよばれ,振動感覚,圧力感覚を担当する.これらを選択的に刺激できることが高品位触覚提示の鍵となると考えられるが,昨年度は電気刺激がマイスナー小体の選択刺激を安定に行いうるのに対して,メルケル細胞の安定的な刺激が原理的に難しいことを見出し,形状記憶合金を用いたピンマトリクス型ディスプレイによって機械的に圧覚を生じさせるハイブリッド的手法を提案した. 本年度はさらにこの形状記憶合金を用いたディスプレイの超高密度化のために必須の技術を確立した.形状記憶合金をマトリクス状に並べた場合,最も単純な駆動方式としては液晶ディスプレイ等で用いられるマトリクス駆動が考えられる.マトリクス駆動はN行N列のピンに対して1行毎に選択するため,1行の駆動時間は1/Nとなる.形状記憶合金のように温度によって駆動される素子の場合,全体の駆動時問はN倍となり,巨大マトリクスの駆動の際には大きな問題となる. この問題を解決するための基礎的なアイデアとしては,同時に駆動可能な場所を複数行に渡ってまとめることが考えられる.我々はこの問題を線形計画問題に定式化することに成功し,全体の駆動に要する時間を√N倍に削減できることを見出した.なお本手法は形状記憶合金の駆動に留まらず,マトリクス駆動が必要な状況で常に利用可能である. さらに本年度は触覚の脳内情報処理に関する新たな知見を得た.触覚は視覚と異なり,脳内における情報処理に関して未知の部分が多いが,高品位触覚提示のためにはこれらの解明が必須と考えられる.具体的には視覚で良く知られている現象である運動残効(流れ落ちる滝を見た後に別のものを見ると上方向への移動が知覚される現象)が触覚でも生じることを初めて見出した.これは触覚の脳内情報処理において運動検出モジュールが運動方向別に存在していることを強く示唆する結果である.
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