研究概要 |
本研究では、幹細胞のドパミン神経細胞への分化誘導及び再生再建医学への応用について研究を行った。 神経幹細胞は通常の方法で分化させると、90%以上がアストロサイトとなり、僅か数%しか神経細胞にならない。しかしES細胞から出発し、神経幹細胞をへて神経細胞に順次分化させると、80%〜90%が神経細胞となった。神経幹細胞から神経細胞へ分化する過程には、多様な遺伝子群が発現上昇及び低下することを明らかにした。その中において、Pleiotrophinは神経幹細胞から神経細胞への強い分化・栄養作用をもち、その効果は、今まで報告されているGDNF及びSHHと同程度であった。一方、AT motif-binding factor 1(ATBF1)は、胎生期の中枢神経系において、細胞分化層で神経細胞の分化マーカーであるβ-tubulin及びMAP2とともに発現した。神経上皮細胞にABF1遺伝子を導入すると、nestinの発現が抑制され、Neuro D1の発現が上昇した。またNeuro 2A細胞に強制発現させると、ATBF1は主に核内に発現し細胞周期を止めた。P19細胞を浮遊培養しレチノイン酸を加えると,ABF1は約50倍高値に誘導されたが、これらはすべて細胞質内にとどまり細胞増殖は持続した。しかし細胞を単離したり培養皿に付着させたりすると、ATBF1は細胞核内に集中し、P19細胞は神経細胞に分化した。ATBF1の核内移行はCaffeineによって抑制されるPI(3)Kキナーゼ依存性であり、細胞質(核外)移行はCRM1依存陸であることを明らかにした。このように、ホメオテイック因子ATBF1は細胞質内では細胞増殖を、細胞核内では細胞周期の停止と神経細胞分化をおこし、脳の発達、分化、脳構造の決定に重要な役割をもつことを明らかにした。 本研究結果は、幹細胞の神経細胞への分化、再生再建医学、そして脳の発達と教育の関係等、多様な方面への展開が期待できる。
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