時間順序が脳のどこで決定されるか、という機能地図の概略を明らかにするための研究を行った。ヒトに対しては心理物理実験と非侵襲脳活動計測を、マウスに対しては免疫抗体染色の手法を適用した。さらに、ラットで電気生理実験を行なう準備としてラット用の課題訓練装置を開発した。 1.ヒト被験者を用いた心理物理実験と非侵襲脳活動計測 右手と左手に加えた刺激の時間順序を判断する際の脳の活動を機能的磁気共鳴画像(fMRI)により計測した。これまで時間順序判断課題と同じ刺激を用いて時間順序の判断は行わないような対照課題の開発が望まれていた。今年度は新規に非磁性の8点点字刺激装置を開発し、対照課題として左右の手の刺激点数の差を判断する課題を考案した。時間順序判断課題で刺激点数判断課題よりも有意に信号強度が強い領域は、主として左半球の中側頭回(動きを検出するMT/V5領域の近傍)と、運動前野(空間座標の表現がある)、ならびにブロードマンの44-47野に見出された。この結果は、2つの刺激が空間で定位されるとともに、動きの情報となり、これらが統合されて時間順序が再構成されるという「動き投影仮説」を支持する。 2.マウスの免疫組織学的研究 左右の髭刺激の時間順序判断課題マウスに訓練することに成功した(15匹中9匹)。時間順序判断課題を行った直後のマウスの脳標本に対し免疫抗体染色法を適用し、c-fos遺伝子の発現領域を検索した。今後、一側の髭のみを連発刺激するコントロール群と比較することにより、時間順序判断に特異的に貢献する脳部位を推定する予定である。 3.ラットの実験系の開発 ラット用の課題訓練装置を開発した。
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