本研究では血流に起因するメカニカルストレスである剪断応力の生体作用を明らかにするために、血管内皮細胞の剪断応力の受容機構と遺伝子応答の包括的解析を行った。内皮細胞は剪断応力の強さの情報をATP作動性のカチオンチャネルであるP2X4を介する細胞外Ca^<2+>の流入反応に変換して伝達することが判明した。P2X4の欠損マウスを作製したところ、このマウスの内皮細胞では剪断応力による細胞外Ca^<2+>の流入反応が消失し、引き続いておこる一酸化窒素産生が減弱することが示された。また、P2X4欠損マウスでは正常マウスに比べ血流増加による血管拡張反応が減弱し、血圧が上昇していた。さらに、血流の減少による血管径の縮小反応がP2X4欠損マウスで障害を受けていた。このことから、P2X4を介する剪断応力の受容機構は血流依存性の血管のトーヌスや血管のリモデリングの調節に重要な役割を果たしていることが明らかになった。剪断応力に反応する内皮遺伝子についてDNAマイクロアレイによる包括的解析を行ったところ、動脈レベルの15dynes/cm^2の層流性の剪断応力に対し内皮遺伝子全体の約3%が反応して発現が変化することが判明した。このことは約600の遺伝子が剪断応力に応答することを意味している。また、クラスター解析で得た継時的な遺伝子の反応パターンは単一ではなく、多様であることが示された。さらに内皮遺伝子の応答が層流と乱流で異なることが明らかになった。例えば、層流に対してウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベータ(uPA)遺伝子の発現が低下するが、乱流では増加することが示された。この場合、層流は転写因子GATA6を介する転写抑制とmRNAの分解促進を、一方、乱流はmRNAの安定化を介してuPA遺伝子の発現を修飾していた。
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