研究概要 |
弾性率が骨類似であり高生体親和性有する材料としてチタン合金が注目されており,現在,多くのチタン合金が生体用として開発されている。中でも,β型Ti-29Nb-13Ta-4.6Zr合金は無毒性および非アレルギー性元素により構成され,DV-Xαクラスター法を用いることにより,低弾性率および高加工性を目的として合金設計された生体用チタン合金である。また,同合金の諸特性は,既存の生体用チタン合金のそれらに比べ,同等もしくはより良好であることが報告されている。最近では,引張特性試験で超弾性を示す実用超弾塑性合金(例えばTiNi合金)が示す場合の応力-歪曲線とほぼ同様な挙動が観察されており、超弾塑性発現の可能性が極めて高いことも報告されている。しかし,Ti-29Nb-13Ta-4.6Zr合金などの多元系Ti-Nb-Ta-Zr系合金の諸性質に及ぼす添加元素量の影響を系統的に調査した例は極めて少ない。本研究では,Ti-Nb-Ta-Zr系合金を用い,製造および加工熱処理条件ならびに合金組成を種々変化させた場合における力学的性質および変形挙動をナノ・ミクロ構造と関連させ調査・検討した。 粉末冶金で作製後,スウェージング加工したTi-XNb-10Ta-5Zr合金の弾性率は,Nb添加量の増加に従い減少する傾向を示す。しかし,ミクロ組織中にω相が析出するNb添加量15mass%,20mass%および25mass%のTi-XNb-10Ta-5Zr合金では逆に増加する傾向を示す。また,Ti-25Nb-10Ta-5Zr合金では,複数の変形機構が同時に活動するため,作製したTi-XNb-10Ta-5Zr合金の中で最大の伸びを示す。Nb添加量が20mass%および25mass%のTi-XNb-10Ta-5Zr合金にて,引張負荷・除荷時においてβ相のα"相への応力誘起相変態および逆変態が生じる。そのため,これらの2種類のTi-Nb-Ta-Zr系合金では,形状記憶効果および超弾性の発現が期待できる。Ti-30Nb-10Ta-5Zr合金の応力-歪み線図では,その弾性変形挙動がフックの法則に従わず,最大弾性歪みは約2.9%である。 冷間線引き加工を含む加工熱処理を施した直径φ1.0mmおよび0.3mmのTi-29Nb-13Ta-4.6Zr合金線材においても,引張負荷時において二段の傾きを有する特異な弾性変形挙動を示し,最大弾性歪みは,それぞれ2.8%および2.9%である。これらの値は溶体化処理を施したTi-29Nb-13Ta-4.6Zr合金熱間鍛造材の2倍程度であり,歯科矯正ワイヤーや外科ワイヤーへの応用が期待される。 以上の結果から,本研究では,低弾性率,形状記憶効果あるいは超弾性特性を有する機能性生体用チタン合金の設計指針が示されたと言える。
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