SARSや鳥インフルエンザを例にとるまでも無く、環境情報サーベイランスシステムの重要性は益々高まっている。これに対しては遺伝子検査が威力を発揮すると考えられる。本研究では遺伝子センシングの精密化・高速化・簡易化を目指し、このための新しい材料システムを開発することを目的としている。本年度は、当研究者らが独自に発見したDNA集積ナノ粒子が示す遺伝子応答現象について、応用研究のための土台作りを目的として研究を行った。すなわち、DNA集積ナノ粒子の示す特異なコロイド界面科学的な物性を、同粒子の電気泳動挙動を調べることにより考察した。その結果、一本鎖DNAを固定化したナノ粒子よりも、相補的なDNA共存下に二重らせんを形成しているナノ粒子のほうが、電気泳動移動度が顕著に小さいことが明らかとなった。たとえば20mMのマグネシウムイオン存在下では約3分の2となった。これは質量・荷電比のみでは説明できない不思議な現象であり、同ナノ粒子が特定イオン濃度以上で二重らせん形成に伴い自発的に凝集することと深く関係しているものと考えられる。現時点では、二重らせん形成によって構造が硬くなり、また電荷が密になることに起因すると考察している。今後、理論面からのバックアップが必要であり、次年度の課題となった。一方、本研究で用いているナノ粒子の基材は温度応答性高分子の自己組織化を利用して調製しているが、一般性や実用性を高める目的で、市販のラテックス粒子を基材として用いて同様の遺伝子応答が観測可能かどうかを調べた。その結果、DNA固定化密度の制御が重要であることがわかった。条件を最適化すれば粒子径測定により遺伝子応答性凝集を観測することは可能であったが、温度応答性高分子を用いた系の様な迅速かつ顕著な目視による凝集判定は困難であった。このことから逆に温度応答性高分子を用いる調製法の特色が浮き彫りとなった。
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