研究概要 |
本研究は虚血性の心不全モデルにおいて、電子的な人工脳幹部を用いて自律神経系の緊張を制御することにより、心不全による死亡率の底減と心臓リモデリングの抑制をはかり、現代医療では手の届かない重篤な心不全治療に新たな道を開くことを目的とする。本年度は従来の薬物治療と新しい電子デバイスによる治療との治療メカニズムの違いを明らかにするために、ラット心筋梗塞モデルにおいて、β_1遮断薬単独治療群(薬物治療群)とβ_1遮断薬+人工脳幹部による迷走神経活動制御群(電子治療群)の治療効果を比較した。8週令のSprague Dawleyラットに左冠動脈結紮を行い、心筋梗塞モデルを作成した。電子治療群では平均心拍数が20〜30bpm低下するように人工脳幹部を設定した。6週間の治療の結果、電子治療群と薬物治療群で梗塞サイズに有意差はなかった(45±5% vs 44±6%)。しかし、電子治療群において心重量は有意に小さく(2.72±0.29 vs 2.96±0.22g/Kg,p<0.05)、左室拡張末期圧は低く(17±4 vs 21±4mmHg,p<0.05)、左室圧微分最大値は大きかった(4941±482 vs 4411±448mmHg/s,p<0.05)。血中ノルエピネフリン濃度に差は無かったが(512±168 vs 771±439pg/mL)、エピネフリン濃度(41±33 vs 85±48pg/mL,p<0.05)及びBNP濃度(99±28 vs 140±48pg/mL,p<0.05)は有意に低下した。以上のことから、迷走神経活動制御による心筋梗塞後の心臓リモデリングの抑制および心機能改善効果は、β_1遮断効果だけでは説明できないことが判明した。人工脳幹部による迷走神経活動の制御は、交感神経に対する拮抗作用と異なる治療メカニズムを持つことが示唆された。
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