研究概要 |
資源の有効利用,環境保護の面から,使用済み材料,特に鉄鋼材料のリサイクルは国家的および世界的規模で重要な課題となってきている.しかし,市場から回収されるスクラップには,鉄鋼材料で熱間加工性を劣化させるSnやCuなどの不純物が混入し,これらの不純物の粒界偏析に起因して著しい脆化が生じる.一方,粒界偏析は粒界の性格・構造に強く依存し,低エネルギーの特殊粒界では起こり難く,逆に高エネルギーのランダム粒界で顕著に起こることがこれまでの研究から明らかにされている.本研究では,これらの基礎的知見を基に,粒界工学的手法によりリサイクル材料の粒界偏析および粒界偏析脆化を抑制する方策を構築することを目的としている.本年度は,最近,さまざまな金属学的現象に影響を及ぼすことが明らかとなってきた磁場作用に着目して,Fe-Sn合金を用いて粒界偏析の制御方法について検討した. 1.磁場作用を利用した粒界偏析の制御:本年度は鉄鋼のリサイクル材料の最も主要な不純物である錫の粒界偏析に対する磁場中焼鈍の影響についてFe-0.8at%Sn合金を用いて調査した.超伝導磁場中熱処理システムを用いて,強磁性温度域の973Kにて6時間,6Tまでの直流磁場作用下で焼鈍を行った.磁場中焼鈍の際に粒界に形成される粒界溝の形状をAFMを用いて測定し,粒界エネルギーを評価した結果,磁場強度が高くなるにしたがい粒界エネルギーが高くなることが見出され,磁場中焼鈍により粒界偏析が抑制されることが示唆された.さらに,FE-TEM/EDS法を用いて磁場中および無磁場焼鈍された試料中のランダム粒界について錫濃度の測定を行った結果,磁場中焼鈍によりランダム粒界における錫濃度が粒内と同程度まで低下することが確認された. 2.Fe-Sn合金の破壊靱性に及ぼす磁場中焼鈍の影響:磁場中焼鈍されたFe-Sn合金(0.02,0,2,0.8at%Sn)を用いて液体窒素中(77K)にて3点曲げ法により破壊靭性値を測定した.その結果,磁場強度の増加とともに破壊靭性値が上昇し,磁場強度が3T以上の試料では純鉄の破壊靭性値よりも高くなることを見出した.磁場中焼鈍がFe-Sn合金の粒界偏析脆化の制御に有効でることが示された.
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