研究概要 |
資源の有効利用,環境保護の面から,使用済み材料,特に鉄鋼材料のリサイクルは国家的および世界的規模で重要な課題となってきている.しかし,市場から回収されるスクラップには,鉄鋼材料で熱間加工性を劣化させるSnやCuなどの不純物が混入し,これらの不純物の粒界偏析に起因して著しい脆化が生じる.本研究は,粒界工学的手法によりリサイクル材料の材料特性劣化に対する方策を構築することを目的として行われたものである.平成15年度に行った研究において,Fe-Sn合金を直流磁場中で焼鈍することにより,鉄鋼の脆化の原因となるSnの粒界偏析が抑制され,破壊靭性が向上することを見出した.そこで,本年度は,Fe-Sn合金の磁気特性に及ぼす直流磁場中焼鈍の影響について明らかにするとともに,粒界偏析および偏析脆化制御に対する交流磁場中焼鈍の効果について検討した. 1.鉄合金の磁気特性に及ぼす直流磁場中焼鈍の効果:強磁性温度域の973Kにて6時間,0〜6Tの直流磁場作用下で焼鈍を行ったFe-0.8at%Sn合金を,振動試料型磁力計(VSM)を用いてそれらの磁気特性を測定した.その結果,磁場強度の増加とともに抗磁力が小さくなり,軟磁性特性が向上することが明らかとなった.このことは,磁場中焼鈍によるSnの粒界偏析が抑制されることにより,磁壁移動に対する粒界のピン止め効果が小さくなることを示している. 2.Fe-Sn合金の粒界偏析および偏析脆化制御に対する交流磁場の効果:温度973Kにおいて50Hz,0.5Tの交流磁場中焼鈍により,粒界エネルギーが低下することが見出された.しかしながら,破壊靭性値は無磁場焼鈍試料に比べて低下した.これらの結果は,直流磁場作用とは異なり,交流磁場作用下では粒界偏析が逆に促進される可能性があることを示唆している.
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