カーボンナノチューブ程度の大きさの準一次元空間での氷のチューブ状結晶のような低次元系での相挙動やイオンの水和構造とその濃度揺らぎは、拘束条件の性質に依存して非常に多様であるが、直接観測するのが困難であるためバルクにくらべて未知である。ナノチューブ中での水の物性は、固液の相境界が臨界点で終わることや、ナノチューブのサイズが一次相転移と連続変化の差異が生じるうえで決定的役割を演じることなど、三次元とは大きく異なった未知の現象が数多く期待されているが、昨今ようやく我々を含めて具体的研究が始まったばかりである。また、これらの準一次元空間における水和されたイオンの動的挙動は、生体内のイオンチャンネルでの部分的に溶媒和されたイオンの構造や移動の機構を明らかにするうえでも重要である。 生体内のタンパク質間の水の役割やイオンチャンネルにおけるイオンの水和構造と移動度を調べその機構を明らかにする目的で、低次元空間での相転移および溶質を含む水溶液の水和構造と輸送現象を計算機シミュレーションにより調べた。 本年度は、カーボンナノチューブ内に水と疎水性分子を導入して、自発的に下図のような8員環から成るチューブ状の氷とそれに包接される疎水性分子の新規なクラスレートと呼ぶべき化合物が生成することを見出した。水単独では8員環は5-7員環と比較して不安定であるが、疎水性のゲスト分子の存在により、クラスレートと同様に高圧では安定化すること、またその安定性の統計力学的な取り扱いも示された。
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