球の詰め込み問題は古くから存在し、近年になって三次元空間における最密充填構造の「証明」がなされたことは有名だが、円筒への剛体球の詰め込み問題が取り上げられたのはごく最近である。この研究は準一次元系の相転移についての統計力学の問題としても興味深く、カーボンナノチューブに代表されるナノ細孔内に導入された物質の結晶構造の解明とも関連する。特に興味深い結果は、第一に、最密構造には複数の結晶構造と螺旋構造が存在すること、第二に、筒の直径の関数として最大充填率の一次導関数に不連続性が現われること、である。この剛体球系で予測された構造のいくつかはカーボンナノチューブ内のC60のシミュレーションでも確認され、その後、実験でも観測された。C60のモデル系においても、われわれのモデル系においても、液体状態から自発的に形成するいくつかの準一次秩序構造を二次元平面に開くと、三角格子があらわれる。最大直径の範囲内で三角格子を折って得られるすべての構造を組み立て、最急降下法によって圧力一定の元でのポテンシャルエネルギー極小構造を計算し、各構造の熱力学的安定性を自由エネルギー(この場合はOKに対応するのでエンタルピー)で評価した。三角格子の区別可能な折り方とその結果得られる準一次元構造を直径順に並べると、ある所定の順序で結晶構造と螺旋構造があらわれる。最初の10構造について円筒直径の関数としてエンタルピーをプロットすると9個の交点がえられ、この直径範囲内に実際10個の相が安定相として存在する可能性が示唆される。この計算を様々な圧力下で行うことにより、直径圧力平面上に9本の相境界線が得られる。次に分子動力学計算を行い、予想した構造が予想した直径領域で自発的に形成されることを確認した。
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