視細胞G蛋白質信号系の一分子生化学を目指す本研究計画は、本年度において基盤的研究システムの構築を終えるとともに、以下に示すような幾つかの技術的に重要なブレークスルーを完了し、未発表ながら重要な成果を納めつつある。 1.視細胞G蛋白質標的酵素の蛍光標識に成功した。 G蛋白質(トランスデューシン)の標的酵素であるcGMP-ホスホジエステラーゼ(PDE)の阻害サブユニット(Pγ)には一つのシステイン残基がある。近赤外蛍光色素をマレイミド化し、PγのSH基を修飾することに成功した。 2.視細胞の光受容体(ロドプシン)とPDEに対する抗体の蛍光標識に成功した。 市販ロドプシン抗体および独自に作成したカエルPDEαサブユニットN末付近の抗ペプチド抗体を蛍光標識抗IgG抗体Fabフラグメントで標識することに成功した。 3.エバネッセンス蛍光顕微鏡と超高感度CCD-ディジタルビデオカメラを用い、カエル視細胞外節(光受容部)でのロドプシンおよびPDEの一分子観察に成功した。 カエル無傷視細胞外節を擬細胞内液中で断片化し、蛍光標識蛋白質を導入した660及び690nmのレーザー光を用いてエバネッセント励起を行い、ニコンのTIRF顕微鏡システム及び日本テキサスインストルメンツ社のCCDカメラを用いて30 flame/secの超高感度動画取り込みに成功した。視細胞外節断面に露出した円板膜(光受容膜)および断片の側面からの蛍光標識蛋白質の観察を行った。 以上の結果、電気生理学的に活性な状態での視細胞光受容膜における蛋白質、特に光受容体ロドプシンと標的酵素PDEの両者の一分子観察に世界で初めて成功し、視細胞G蛋白質信号系の一分子生化学の第一歩を踏み出すことができた。
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