研究概要 |
本年度は視細胞円板膜上でのロドプシンの一分子挙動を定量的に分析することに努力を傾注した.当初導入したCCDカメラで到達できる解像度は解析に不十分だったため,年度途中から高感度のEM-CCDを導入し観察に取り組んだ.また,一分子観察時に常に新しい脱酸素バッファーで円板膜周辺を灌流することが試料のpHを維持するのに不可欠であることが判明し,それらの改善点を踏まえて再度詳細な一分子観察を行った.さらに,ロドプシンが2量体あるいはクラスターを形成する可能性が示唆されたため,Cy7/Cy5間のFRETを利用したロドプシン相互作用の検討も試みた. その結果,ロドプシンの円板内での易動度は時間空間的に不均一であることが明らかになった.ロドプシンの100ms間での実効拡散係数は大きく変動し,そのヒストグラムは速い成分と遅い成分を含んでいた.速い成分の平均拡散係数は約0.2μm^2/s,遅い成分の拡散係数は約0.05μm^2/sであり,後者はIgGによって人為的に2量体化したロドプシンの拡散係数とよく一致する.2量体化によってロドプシン間相互作用が大きくなり,円板膜の実効粘度が高くなるものと推定された.Cy5及びCy7標識Fab'を用いてロドプシン間のFRETを観察したところ,有意なFRET蛍光が見られた.FRETの一分子観察で得た平均拡散係数は約0.05μm^2/sで,ロドプシンの拡散係数の遅い成分と一致した.これらの結果は,ロドプシンが円板膜上を拡散する際に常に会合と解離を繰り返しており,会合によって拡散が遅くなることを示唆した. 本研究によってこうした新しいロドプシン像が得られつつあるが,大変遺憾ながら現時点で論文発表に至っていない.また,視細胞での一分子FRET観察が可能になったことを受けて,G蛋白質とロドプシンとの相互作用についても検討を開始したところである.
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