視細胞円板膜におけるG蛋白質信号系の一分子生化学の基盤作りを行った。桿体外節の円板膜は予想通り全反射顕微鏡を用いた一分子蛍光観察に適した材料であることが確認でき、最近になって円板膜上でのロドプシンやG蛋白質トランスデューシンあるいはその標的酵素であるcGMP-PDEの一分子挙動を詳細に解析できる段階に至っている。いずれもCy色素の赤から近赤外の蛍光色素を用いた。ロドプシンの観察には蛍光標識抗体Fab'断片を用い、一分子挙動をビデオ速度で追跡することが可能となった。ロドプシンは最近報告されたような静的な擬結晶を形成してはおらず、頻繁に拡散速度の変化する異常拡散を行っている。Cy5-Fab'からCy7-Fab'へのFRET観察によってロドプシンが短寿命の2量体あるいはクラスターを形成していることが示唆された。また、2量体形成時に拡散速度が低下することも分かった。このような2量体化に依存した拡散速度低下はIgGなど2価のプローブを用いて人為的にロドプシンを2量体化した場合にも認められた。クラスターを形成して拡散速度が低下することは一見信号増幅に不利に見えるが、様々な状況証拠からクラスター化が光信号変換に重要な意味を持っていることが示唆された。また、G蛋白質トランスデューシンは独自の方法で活性を維持しながらCy7で直接標識することに成功した。予備実験ではロドプシンとは全く違う一分子挙動を示し、大変興味深い知見が得られている。PDEについてもその阻害サブユニットを活性を維持したまま蛍光標識することに成功し、予備実験を始める段階にある。
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