研究概要 |
申請者らは、微細加工技術によりピコおよびナノリットルレベルでの微量容積を有するチャンバーを多数配置したマイクロチャンバーアレイチップを設計・作製し、このチップ上で一分子および一細胞レベルでの検出および解析が可能なシステムの開発を行った。まず、免疫細胞の網羅的解析システムの開発として、ナノリソグラフィー技術であるLIGAプロセスを用いて、20万個以上のチャンバーウェル(直径10μm)を有するポリスチレン製マイクロアレイチップを作製し、チップ上にマウス脾リンパ球細胞溶液(1x10^7cells/ml)を展開した。チップ表面には酸素プラズマ処理を行い、細胞がチャンバー内に導入しやすい条件を検討した結果、各チャンバーウェル中に80%以上の導入効率にて一細胞を配置することに成功した。このチップ上にて、抗マウスIgM抗体刺激を行った後、マイクロアレイスキャナーにより、Ca^<2+>シグナルを指標として活性化Bリンパ球細胞集団の検出および解析を行うことができた。チップ上に展開された細胞のうち、0.29%のBリンパ球細胞が、刺激前の10倍以上のCa^<2+>シグナルの増加を示した。また、コントロールとして用いた抗ヒトIgM抗体による刺激においては、刺激前の5倍以上の蛍光強度の増加は殆ど見られなかった。また、実際の抗原として、ダイオキシン(2,3,4,7,8-pentachlorodibenzofuran)ハプテンを抗原として刺激を行った結果、刺激後において12倍以上の高い蛍光強度の増加を示す活性化Bリンパ球細胞(約0.2%)を検出することができた。以上より、一細胞レベルで同時に多数の細胞シグナル解析を一枚のチップ上で行えることが示された。次に、一分子および一細胞レベルでの遺伝子解析システムとして、微細加工技術によりナノリッターチャンバー(容量約50nL)を1248個集積化したシリコン製マイクロチャンバーアレイチップを作製し、本チップ上で微生物検出実験を行った。まず、ナノリッターデイスペンサーを用いて病原性細菌であるCampylobacter jejuniに特異的なプライマーを含む溶液を各チャンバーに40nLずつ導入した。溶液を乾燥した後、チップ全体をミネラルオイルで覆い、再びデイスペンサーを用いて、プライマーを導入したチャンバーにターゲットを含むPCR反応液をオイル層を貫通させて導入し、PCR反応を行った。標的遺伝子の増幅はSYBR Greenの蛍光検出により確認し、テンプレートとして微生物培養液を直接PCR反応液に添加した。検出方法としてはナノリッターチャンバーアレイチップを、90チャンバーを1つの領域とする5つの領域に分け、異なる細胞濃度(20、10、1、0.1cell/chamber)のPCR反応液を各領域に導入し、反応後、マイクロアレイスキャナーを用いて各領域の蛍光強度を測定した。溶液導入から約2時間で標的微生物を検出することができ、1つの反応に90チャンバー使用した場合、0.1cell/chamberの濃度まで検出することができ、定量性も得られた。また、夾雑物として大腸菌野生株を多量に含む系においても、標的微生物が検出できることを確認した。この結果から、本手法により、標的微生物を直接、簡便かつ迅速に検出可能であることが示された。
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