研究概要 |
本研究は、p電子系(ボロン・カーボン・シリコン系)化合物における超伝導・磁性の発現機構を総合的に理解するため、研究を行ってきた。主な研究成果を以下に述べる。 1.MgB_2の電子対媒介相互作用スペクトル、Al固溶系試料におけるフォノン状態密度の測定から、ボロン面内の高エネルギーフォノンモードが電子系と強く結合することを明らかにした。このことより、MgB_2は軽元素の高エネルギー振動が関与した新しいタイプの強結合超伝導体であるとの結論を得た。トンネル分光測定からは、その強結合性を反映した超伝導ギャップを観測し、互いに相関を持つ多重ギャップ構造の存在を明らかにした。 2.MgB_2と同タイプ結晶構造を有するNbB_2やCaAlSiについてトンネル分光によるエネルギーギャップ測定、放射光X線による結晶構造・電子密度分布の評価を行い、それぞれの系において、その超伝導特性と組成変化による結晶構造の微小な変化との間に密接な関係があること、従来型超伝導とは異なる特徴を持った強結合超伝導であることを明らかにした。 3.新しい超伝導体として、W_7Re_<13>X(X=B, C) (T_c=7.1K,7.3K)、Mo_7Re_<13>X(X=B, C) (T_c=8.3K,8.1K)、Y_2C_3(T_C=18K)を発見した。Y_2C_3におけるT_cの変化の原因を結晶構造の観点から探るため、放射光X線を用いた構造解析を行ったところ、ろの変化と結晶中のC-Cダイマーの距離との間に密接な関係があることを示唆する結果を得た。また、比熱、NMR測定、トンネル分光測定から、電子対の波動関数はs波の対称性を持つが、2種類の超伝導ギャップが存在することを明らかにした。特に、大小二つのギャップの温度変化から、バンド間相互作用の比較的小さな2ギャップ超伝導体であることを明らかにした。 4.CaB_6のμSR測定、角度分解光電子分光測定から、Bの核双極子モーメントでは説明のつかない、150K付近での何らかの電子的な相転移を示唆する内場、ある特殊な逆格子位置に形成される小さな電子ポケットを観測し、これらが特異な磁性の出現に関わっていることを示唆する結果を得た。
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