研究概要 |
本年度は研究計画の最終年度にあたり,これまでの研究のまとめを中心に行った. 具体的には,重要な堆積システムであるにもかかわらず,情報の乏しかった潮汐三角州での掘削が追加できた.大阪府吹田市でのコア掘削は,用地使用の許可が遅れ,全コアの解析まで至らず,一部今後に持ち越された.しかし,吹田砂堆と名づけられた地形の高まりが年代測定から予想どおり,河川堆積物ではなく,河内湾の湾口にできた砂州にともなう潮汐三角州堆積物であることがわかった.また,進めてきた愛知県矢作川の三角州の研究は,年代値がシステマティックにでたことで解析が進み,土砂供給の変動を定量的に見積もることに成功した.その結果,弥生時代以後の急激な土砂供給が人為的なものであることを示した.この結果は,人間活動が三角州という巨大な地形形成にまで影響を与えるという衝撃的なものであった.さらに,河川システムの発達についての実験は,従来の考えかたとは違った認識が必要であることを明らかにした.これは河川堆積物からなる地層形成を理解する際に重要となろう. この研究のまとめの成果は,本年度に行われた国際堆積学会で講義し好評を得た.そこでは地層の累重様式が具体的な年代,堆積速度,水深など,これまで求めることができなかった要素を盛り込んで語られ,ダイナミックな地層形成を示すことができた.報告書に示した成果は学術論文として公表予定である. この研究計画は予算面や掘削地点の制限から,最終段階まで達しておらず,今後も調査・研究を続ける必要がある.これまでの成果と採取した試料の追加解析から,近い将来にさらなる成果が期待できる.また,実施した実験結果も地層累重を解明する基礎となるに違いない.
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