研究概要 |
次のような研究成果が得られた.1)地層のサクセッションに高密度で多数の年代値を入れることで,「年代-標高(深度)ダイアグラム」上に滑らかな"堆積曲線"とよばれる曲線を描くことができる.堆積曲線を用いると地層の堆積年代を精度よく求めることができる.2)堆積曲線がその年代の海底の高さの変化を示すと考えることで,累積(堆積)速度が,また,その地域の海水準変動曲線とを組み合わせると,水深と海面高度の変動を知ることができる.3)堆積曲線のパターンは,堆積システム毎に特徴があることがわかった.また,堆積システム毎に堆積相の重なりには特徴があることはすでにわかっており,これが堆積相解析と呼ばれる現在の堆積相の特徴を過去の地層の堆積相に適用する手法が利用できる拠り所でもある.この2つのことから,堆積システム毎に累積速度の相対的な変動が推定でき,それを古い地質時代の地層に適用することができる.すなわち,地質時代の地層に対して相対的な累積速度を知ることができるのである.4)地層断面に数100年毎の同時間面を入れることができた.これによって地層の発達を具体的な時間でとらえることができ,その堆積過程や発達様式と海水準の変動との関係を検討することができた.5)この研究の過程で,新しい方法で地層から高精度の相対的海水準変動を求める試みがなされた.ひとつは1本のコアで,貝形虫とよばれる化石から古水深を決め,堆積曲線と組み合わせことで,大阪湾の過去9000年間の海水準変動を,もうひとつは,陸一海断面の中で海浜(潮間帯)の堆積物の年代と標高をきめることで,九十九里浜平野の過去6000年間の海水準変動を高精度で復元した.九十九里浜平野で海水準変動が高精度で復元できたことで,未知の地震隆起を検出することに成功した.6)堆積物がどのくらいの年代で地層として固定されるか,いいかえれば,堆積物の滞留時間を推定することができる.その滞留時間は堆積環境毎に,あるいは海水準の動きとの関係によって異なる.例えば,海退期の外浜とよばれる海岸から深さ20mくらいまでの堆積物は,100年〜300年程度で地層として固定されるのに対して,海進期の外浜堆積物には数1000年間の堆積物が混在しているものがある. これらの研究結果は,シークェンス層序学のフレームワークのいくつかは再構築する必要があることを示している.この研究をさらに進めることで,近い将来,海進・海退を記録している我が国の貴重な完新世の地層の解析から,地層発達に関するさらにダイナミックなモデルが提唱できると期待している.
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