本研究では、隕石などの地球外試料や海洋や湖沼堆積物などの地球環境試料中に存在する有機化合物を構成する複数の元素(特に炭素と水素)の同位体組成を同時に解析することにより、有機化合物の生成・分解メカニズム、起源や運搬過程の推定、植物における光合成の代謝過程プロセスに関して新たな情報をもたらした。 炭素質隕石中のカルボン酸や不溶性高分子有機物について炭素・水素同位体組成の二次元解析を行い、これら隕石有機物の変質過程と同位体組成が結びつくことを明らかにした。地球環境試料における有機分子レベルでの炭素・水素二次元同位体解析法は世界で初めて行われた。湖沼堆積物を用いて氷期-間氷期におけるn-アルカンの炭素・水素同位体比が植生・水環境の変化により変動することを見出した。さらに海洋表層堆積物において酢酸の炭素-水素同位体比が深度によって変化することを見出し、酸化還元状態の変化による生物活動の変化と結びついていることを示した。また、酢酸、メタノール、アセトニトリル、ベンゼンなどの宇宙空間にも存在が報告されている有機分子の紫外線照射分解時の炭素と水素の同位体分別係数を決定し、自然環境下で起こりうる有機分子分解時の同位体比の変化幅を見積もった。 研究遂行期間途中に研究代表者が大学を異動し、質量分析計や大学院生の移動などの問題により、当初予定した研究計画のすべてを実行することはできなかったが、ほとんどの部分について多くの研究成果を達成できた。4年間の期間中に21編の論文が英文学術誌に発表され、国内外の学会で43件の成果発表も行った。
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