本研究は、分子科学において未開拓領域である準メゾスコピック系分子の量子ダイナミクスの基礎理論を発展させ、それに基づく新しい量子状態・物性の探索を行うことである。研究は順調に展開されており、本年度は以下の成果があった。 1)分子の電子動力学の基礎理論とアルゴリズムを構築し論文として報告した。特に、強いレーザー場中に置かれた分子の、電子波束と原子核の運動が結合して運動する分子の動力学研究に重要な進展がなされた。この研究は、原子核の運動と結合して運動する分子内の電子輸送の重要な基礎となるものである。 2)プロトン移動に関して以下の成果があった。(a)プロトン移動によって引き起こされる互変異性と超共役のカップリングによる化学的長距離相互作用の一般論を、実例を示しながら、構築した。(b)プロトン移動の過程における電子輸送の機構の解明を行った。 3)分子科学の理論的概念的基礎であるボルン・オッペンハイマー近似の適用限界の数理的解析を行い、一般に信じられているより、適用限界が広いことを明らかにした。 4)カオスの量子化の機構の解明を進めた。 5)水素結合を経由したエネルギー移動における量子効果を記述し、そのスペクトル異常を解明するため、量子・古典混合法(電子状態も含む)を発展させた。数値的な計算による、三上らによる興味深い実験の説明が可能となった。
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