自由エネルギーランドスケープ(FEL)とは、ガラスやタンパク質などフラストレートした系の動的性質を特徴づけるため、広く用いられている、マクロな物理量を束縛変数とする自由エネルギーのことである。本研究は、様々な仮定に基づいたエネルギーランドスケープの議論を、分光学的な方法により直接観測する可能性を探ることにより、フラストレーション系の動力学を探求することにある。この目的にために自由度を落とした双極子相互作用をする粒子系のモデルを構築した。モデル系の自由度を数えあげることにより正確なFELを求め、またマスター方程式を構築することによりその動力学を調べた。様々な温度でのFELを計算し、温度が高い場合にはFELはパラボラ型、低い場合は局所ミニマムを持つことが示された。その応用としてガラス転移温度以下でのマーカス理論の検証も行った。エネルギー面上の動力学の違いの解析には多次元分光の持つ鋭敏性が用いられた。マスター方程式を用いる事により、極低温状態での遅い緩和現象を、統計平均を取った形で求まる。この方法を、2次元赤外やテラヘルツ分光の観測量に対応する、4体の双極子相関関数を計算するアルゴリズムに適用し、ガラス転移温度以下での多次元シグナルを計算することに成功した。その結果通常の線形赤外分光では、FELの局所ミニマム構造が異なっていても、緩和の形にはあまり変化がないのに対して、2次元赤外分光では、ミニマムに状態がトラップされる様を、2次元信号上の変化として捉えられることを示した。また遅い緩和を多次元分光シグナルとして捕らえることが可能な平衡・非平衡はハイブリット分子動力学シミュレーションアルゴリズムなどのシミュレーション手法も開発した。様々な分子性液体の2次元ラマン分光シグナルの計算なども行った。これらの結果は17本の原著論文にまとめられた。
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