本研究では、各種の遷移金属錯体を触媒量用いて適切なデザインを行った基質との反応を行い、金属部位を有する多機能性反応活性種を創出することにより、有機反応活性種としての反応と金属錯体としての反応を連続的に行うことのできる反応系を実現し、従来その合成に多段階を必要とした有用物質を一挙にかつ無駄なく合成する新手法の開発を行うことを目的とする。 本年度はまず、アルキン部位を有するジエノールシリルエーテルに対し、触媒量のタングステンカルボニル錯体を作用させると、ビシクロ[3.3.0]オクタン骨格を有する化合物が高収率で得られることを見いだした。さらに各種の遷移金属錯体を用いて本反応の効率化をめざした検討を行った結果、光照射条件下レニウムカルボニル錯体を用いると、わずか0.5mol%の錯体を用いるだけで高収率で目的とするビシクロ環化体が得られることを見いだした。本反応はアセチレン化合物の同一炭素上で求核剤と求電子剤が反応し、一挙に二つの炭素-炭素結合生成が行える点で、従来例のない形式の反応を実現したものである。また、これまでレニウム錯体を炭素-炭素結合を生成反応に利用した例はほとんどなく、そのような観点からも非常に興味深い反応である。 また、タングステンカルボニル錯体を用いるo-エチニルフェニルカルボニル化合物からのタングステン含有カルボニルイリドの生成とその電子豊富アルケンとの反応につき、特に反応機構に関する詳細な検討を行った。その結果、本[3+2]付加環化反応が協奏的な反応であり、また、室温で速やかに平衡が存在するという、極めてまれな反応であることを明らかにした。併せて計算科学的な手法を利用して、反応活性種の解析も行った。
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