研究概要 |
高い基底スピン多重度と負のゼロ磁場分裂定数をもつ錯体分子は、比較的低い磁場で分子内のスピンが揃う超常磁性を示し、単分子磁石(ナノ磁性分子)と呼ばれ、量子スピントンネル効果、量子スイッチなどメゾスコピック系特有の量子物性を示す。また、分子自身が磁石として働くため、磁気メモリー等の分子素子として期待される物質群である。本研究では次の研究を行った。1)異核金属錯体の合成法の確立:これまでの異なった金属イオンを含む錯体分子の合成は、それぞれの金属イオンに特化した配位環境をもつ有機配位子をもちいることにより行ってきた。我々は金属イオンと配位子の安定度の違いを巧みに利用することにより、一つの配位環境で異なった金属イオンを含む錯体合成法を確立した。2)異核金属錯体からなる単一分子磁石の合成:アルコキソ基をもつ多座配位子と金属イオンとの自己集積化により3d異核錯体、多様な核数・構造をもつマンガン及び鉄多核錯体、希土類イオンを含む金属多核錯体を合成した。異核4核錯体である[Mn^<III>_2Cu^<II>_2]と[Mn^<III>_2Ni^<II>_2]はそれぞれS=3,S=6の基底スピン多重度をもつ単分子磁石であることを明らかにした。3)酸化物クラスター分子の合成:5座有機架橋配位子とマンガンおよび銅イオンの反応により、混合原子価錯体[Mn^<III>_8Mn^<IV>_4Cu^<II>_8(O)_<16>(Ac)_4(MeO)_4(L)_4](NO_3)_4を偶然合成することができた。この錯体は、4つのCu(II)複核錯体が酸化物イオン架橋子混合原子価Mn(III, IV)12核コアをキャップした構造をもつ。現在、錯体の物性測定を行っている。
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