金属ポリヒドリドクラスターによる窒素の還元および有機基質への取り込み

2003 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 15205009
• 研究種目: 基盤研究(A)
• 研究機関: 東京工業大学
• 研究代表者: 鈴木 寛治 東京工業大学, 大学院・理工学研究科, 教授 (30106629)
• 研究分担者: 高尾 俊郎 東京工業大学, 大学院・理工学研究科, 助手 (00313346)
• キーワード: 窒素固定 / ルテニウムヒドリドクラスター / カチオン性ポリヒドリド錯体 / ヒドラジン / 置換ヒドラジン / 水素化 / 窒素-窒素結合切断 / 三重架橋イミド錯体

研究概要

植物中での窒素の還元はニトロゲナーゼによって触媒される。窒素はニトロゲナーゼによる連続的なプロトン化と電子移動を受け、常温常圧という穏やかな反応条件の下でアンモニアにまで還元される。この反応はヒドラジド中間体を経由して進むものと考えられている。一方、ポリヒドリドクラスターは分子内に多数の水素を持ち、さらに多電子移動の能力を有するため、窒素の還元に活性を有するものと期待される。本年度は2種類のポリヒドリドクラスター、すなわちトリルテニウムペンタヒドリド錯体とカチオン性トリルテニウムヘキサヒドリド錯体と、ヒドラジンおよび置換ヒドラジンとの反応を詳細に検討し、以下の成果を挙げた。
トリルテニウムペンタヒドリド錯体とメチルヒドラジンあるいは1,2-ジフェニルヒドラジンの反応では置換基を有する窒素原子から、1,1-ジメチルヒドラジンの反応では無置換側の窒素からクラスター反応場に取り込まれたのち、隣接金属原子の協同作用によって窒素-窒素結合が効率的に切断され、三重架橋イミド錯体が生成することを明らかにした。一方、カチオン性トリルテニウムヘキサヒドリド錯体は無置換ヒドラジンと室温下で反応し、選択的にモノ-三重架橋イミド錯体を与えたのち、さらにもう1分子のヒドラジンとの反応でビス-三重架橋イミド錯体を与えることを明らかにした。ここで生成したモノ-およびビス-三重架橋イミド錯体を5気圧の水素と接触させるとアンモニアの発生と共に中性のトリルテニウムペンタヒドリド錯体が生成する。トリルテニウムペンタヒドリド錯体は系中に存在するプロトンと反応し、出発原料であるカチオン性トリルテニウムヘキサヒドリド錯体となる。以上より、形式的ではあるが窒素還元の後半過程であるヒドラジンの触媒的水素化分解を達成したことになる。

研究成果

• [文献書誌] 高尾俊郎, 尼子雅章, 鈴木寛治: "Successive Si-H/Si-C Bond Cleavage of Tertiarysilanes on Diruthenium Centers. Reactivities and Fluxional Behavior of the Bis(μ-silylene) Complexes Containing μ-Hydride Ligands"Organometallics. 22. 3855-3876 (2003)
• [文献書誌] 稲垣昭子, 高尾俊郎, 守谷誠, 鈴木寛治: "Thermal Skeletal Rearrangement of a nido-Ruthenacyclopentadiene Complex Involving Reversible Rupture and Formation of a Ruthenium-Ruthenium Bond"Organometallics. 22. 2196-2198 (2003)
• [文献書誌] 高尾俊郎, 稲垣昭子, 室谷英介, 今村蕾, 鈴木寛治: "Bimetallic Reductive C-C Coupling Reaction Induced by Chemical Oxidation ; Formation of a μ_3-C_3 Ring on a Triruthenium Cluster"Organometallics. 22. 1361-1363 (2003)
• [文献書誌] 中島裕美子, 鈴木寛治: "Nitrogen-Nitrogen Bond Cleavage of Hydrazine Derivatives by Trinuclear Pentahydride Complex of Ruthenium, (Cp'Ru)_3(μ-H)_3(μ_3-H)_2(Cp'=η^5-C_5Me_5)"Organometallics. 22. 959-969 (2003)
• [文献書誌] 大橋理人, 松原公紀, 飯塚崇, 鈴木寛治: "Novel Trinuclear Ruthenium Polyhydride Complexes with a Triply Bridging Ligand Containing Group 1, 2, 12, and 13 Metals, (Cp'Ru)_3(μ_3-M)(μ-H)_3(μ_3-H)(Cp'=η^5-C_5Me_5;M=Li, Mg^iPr, and ZnEt) and (Cp'Ru)_3(μ_3-M)(μ-H)_3(M=AlEt and GaMe)"Angew.Chem.Int.Ed. 42. 819-823 (2003)
• [文献書誌] 大木靖弘, 上原直樹, 鈴木寛治: "Pentanuclear Polyhydride Cluster of Ruthenium with Trigonal Bipyramidal Geometry. Synthesis and Fluxional Behavior"Organometallics. 22. 59-64 (2003)