研究概要 |
遷移金属配位圏内で、シリル基が転位することによる新規反応を見いだした。 シリル置換ホスフイン,PR_2SiMe_3と、Cp(CO)_3MoMeを含むTHF溶液に光照射を行うと、Mo-P-Cの3員環メタラサイクル錯体,Cp(CO)_2Mo{PR_2CMe(OSiMe_3)-κC}が生成することを見いだした。この反応は、Moに配位したシリルホスフィン上のシリル基が、アシル配位子中の酸素原子へ1,4-転位することにより起こる前例のない反応である。また、このメタラサイクル錯体とBF_3・OEt_2との反応により、ホスファメタラシクロプロペン錯体が生成することを見いだした。この反応は3員環上のOSiMe_3基をルイス酸により陰イオンとして引き抜き、歪みのある3員環をさらに歪みの大きいMo=C二重結合をもつ3員環に変換する興味ある反応である。 また、シリル鉄錯体Cp(CO)_2FeSiMe_3をMeCN共存下光照射を行うと、アセトニトリルのC-C結合が切断されることを見いだした。シリル基と類似のアルキル基、ゲルミル基、スタニル基をもつ鉄錯体では、アセトニトリルのC-C切断反応は起こらず、この反応はシリル基に特徴的な反応である。この反応はη^2-配位したアセトニトリルの窒素原子に、鉄上のシリル基が転位してイミン錯体となり、その後C-C結合が切断されることが分かった。シリル基が鉄からニトリルの窒素原子へ転位する原因として、シリル基の正の分極が考えられる。アルキル基やスタニル基はむしろ負に分極している。η^2-配位したアセトニトリルの窒素原子は負電荷を有しているため、正に分極したシリル基が転位しやすいと言える。
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