前年度までに、申請者は鉄錯体(CpFe(CO)_2Me)を触媒として、Et_3SiHとアセトニトリル(MeCN)を含むTHF溶液に光照射を行なうと、Et_3SiCNとメタンが生成することを見出した。今年度はこの反応で生成したEt_3SiCNを有機物に組み込む反応の開発を行なった。Et_3SiCNはCNソースとして利用されているが、この合成にはKCNやHCNなどが使われており、環境面および健康面で好ましいとはいえない。従って通常は反応不活性で比較的安全なアセトニトリルから合成したEt_3SiCNを効率的に有機物に組み込む反応ルートが見つかると、グリーンケミストリーの立場や原子効率の観点から興味深い反応となる。 鉄錯体触媒存在下、Et_3SiCNとMeCNから合成したEt_3SiCNをin situでアルデヒドおよびケトンと反応させたところ、カルボニル部分へSi-CN結合が付加したシアノヒドリンシリルエーテルが生成することを見出した。Et_3SiCNとアルデヒドやケトンのみでは反応は進行しないことから、系中に存在する鉄錯体が有機カルボニルのシリルシアノ化反応触媒としても働くことが分かった。現在その活性種はCpFe(CO)(SiEt_3)であると考えている。この活性種はアセトニトリルのC-C結合切断およびC-Si結合生成の触媒となると同時に、C-Si結合を切断する触媒としても働くユニークな錯体であることが分かった。
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