研究概要 |
疎水性高分子とイオン性高分子がブロック的に結合したイオン性両親媒性高分子の特異的な性質,すなわち,気水界面に吸着せず(界面不活性)に水中でミセルを形成する現象について,より詳細な調査を行った.親水鎖の重合度をほぼ50と一定にし,疎水鎖の重合度を変化させた一連の試料をリビングアニオン重合法とそれに続く高分子反応により合成した.疎水鎖が比較的短いポリマーは,やはり界面不活性であり,水溶液の表面張力は低下せず,また起泡性も極めて弱いものであった.一方,水溶液中には,ミセル会合体が存在することが,動的光散乱,X線小角散乱,中性子小角散乱(SANS)測定により確認された.SANSによっては,ミセルが球状のみならず,棒状ミセルと共存している場合があることが判明した.水溶液中に1M程度の添加塩(NaCl)を添加すると,表面張力の低下が見られ,起泡性も大きく増大した.これは,非吸着性が,界面における静電気的効果であることを物語り,鏡像電荷によるイメージフォースがその主因であることを示唆する.疎水鎖長が親水鎖長の3倍を超えると,無添加塩条件でも,表面張力の低下が見られ,起泡性も増大した.これは,疎水鎖長増大にともない,疎水吸着力が大きくなり,イメージフォースによる界面からの斥力を凌駕したことを反映していると考えられる.これは,イメージフォースの定量化につながる重要な情報である.疎水鎖の長い高分子系に添加塩を加えると,表面張力は大きく低下していき,ある一定の高分子濃度以上では一定値になるという,低分子界面活性剤と同様の傾向を示すことがわかった.これは,イオン性高分子ならではの強いイメージフォースが,添加塩により遮蔽され弱まると共に,これに長い疎水鎖長による強い疎水吸着力が加わって,イオン性両親媒性高分子ならではの特性がすべて打ち消されたためと解釈できる.
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