研究概要 |
我々が合成に成功したイオン性両親媒性ブロックコポリマーは,界面不活性でありながら,水中でミセルを形成するという従来にない新規物質であることが判明した.この特異性は,高分子性,イオン性,両親媒性の3つの性質がバランス良く調和した時に発言することが分かった.分子鎖長と鎖長比を厳密に制御した一連のポリマーを合成し,その性質と自己組織化挙動を表面張力測定,蛍光測定,動的光散乱,および中性子小角散乱等の手法を駆使して系統的な研究を展開した結果,「新規物質」となる条件は,(1)イオン性の親水鎖の重合度が50以上であること,(2)疎水鎖長が親水鎖長の3倍以内であること,(3)クーロン相互作用を遮蔽してしまう添加塩の濃度が0.1M以下程度であること,が判明した.また,これらの一連の実験により,この特異性発現は,イオン鎖が界面近傍に存在することによる鏡像電荷斥力が疎水鎖の疎水性による界面吸着力を凌駕することによることが定量的に明らかとなった.また,疎水鎖,弱酸鎖,強酸鎖からなるトリブロックポリマーの合成にも成功し,同様の性質を示すことを確認した. さらには,イオン性ブロックポリマーが水面で形成する単分子膜については,「絨毯層のみ」と「絨毯層+ブラシ層」の構造転移があることが判明していたが,その転移を起こす臨界ブラシ密度が0.1-0.4nm^<-2>に存在することを見いだすと共に,その鎖超依存性が,強酸と弱酸で異なることを発見した.また,添加塩イオンがブラシ層に入り始める臨界塩濃度の定量化にも成功した. 以上より,イオン鎖と疎水鎖という相反する性質を持つ高分子を有機化学を駆使して合成し,さらに鎖長を厳密にコントロールする精密合成の技術と,界面および溶液の物性測定技術,そして自己組織体の厳密な構造解析技術が融合することにより,新規物質「イオン性両親媒性ポリマー」の発見と応用に結びついたと結論できる.
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