研究概要 |
疎水鎖とイオン性の親水鎖からなるジブロックコポリマー(イオン性両親媒性高分子)の分子物性および水中でのミセル,水面単分子膜などそれらの自己組織体の構造と特性に関して,合成から物性,構造解析に至る系統的研究を展開した. イオン性両親媒性高分子は,(i)意外にも界面不活性性を示す,(ii)しかしながら水中ではミセル会合体を形成する,という界面化学の常識を逸脱する「新規物質」であることが判明した.この異常な性質の根源を,疎水鎖と親水鎖の鎖長と鎖長比を厳密に制御した試料を用いて検討したところ,イオン鎖による気水界面での鏡像力が支配的因子であることを見いだした.そして,界面不活性となる鎖長,鎖長比,イオン強度などを定量的に解明した.すなわち,この特異な性質は,高分子性,イオン性,疎水性の三要素が絶妙のバランスを達成した時に発現するものであることが明らかとなった. 水中で形成されたミセルは,0.5M以上の極めて高い耐添加塩性を示した.また,鎖長,鎖長比,塩濃度により球状-棒状の形態変化を示すことが認められた. 単分子膜の構造をX線および中性子反射率測定にて系統的に調査したところ,疎水層/ブラシ層の単純な二層構造ではなく,間に「絨毯層」とよぶ親水鎖が密に詰まった層が存在することが見いだされた.これは,界面自由エネルギーを低下させるために形成されると考えられ,その厚さは,常に15Å程度と一定であった.二層構造と3層構造の転移を示す臨界ブラシ密度を見いだすと共に,添加塩により構造転移が起こる,臨界塩濃度が存在することを見いだした. 以上より,イオン鎖と疎水鎖という相反する性質を持つ高分子を有機化学を駆使して合成し,さらに精密合成の技術と,界面および溶液の物性測定技術,そして自己組織体の厳密な構造解析技術が融合することにより,新規物質「イオン性両親媒性ポリマー」の発見と応用に結びついたと結論できる.
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