平成16年度は、アモルファス相と熱力学的に競合する相の一つである固溶体に焦点をあわせて、その熱力学的な安定性を調査した。具体的な実験は、現有の超高真空電子顕微鏡に本研究費で昨年度購入した超高真空電顕用双源蒸着装置付試料加熱・冷却ホルダーをセットしたシステムにて行った。系としてはPb-Sn系を選定した。Pbナノ粒子中へのSnの合金化を110℃で調べた。あらかじめ形成した純Pb粒子の平均直径は約7nmであり、バルクと同様FCCの結晶構造を有することが確認された。その上にSnを蒸着した。Snの蒸着によって平均直径約15nmの合金粒子が形成された。EDX(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)によりそれらの粒子の平均組成はPb-56at.%Snであることを確認した。電子回折図形からこれらの合金粒子はPbと同じFCCの結晶構造を有していることが確認された。つまり固溶体の形成が確認された。110℃におけるバルクのPbへのSnの固溶限は10at.%であることから、直径約15nmのPb粒子へのSnの固溶度はバルクの5倍以上に増加することが分かった。また、これを室温まで冷却させるとβ-SnとPbに二相分離し、その後再び110℃に加熱するとPb固溶体に戻ることが確認された。このように温度に対する可逆的な相変化は合金ナノ粒子における固溶度増大が非平衡状態ではなく平衡状態でおこることを示している。系のナノサイズ化にともない、こうした高溶質濃度の固溶体とアモルファス相とが相互に安定性を競いながら合金構造を支配してゆくことが分かった。
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