本研究では、合金ナノ粒子に出現する熱力学的に安定なアモルファス相の成因を実験および熱力学計算によって調べた。 まずSn-Bi系合金を用いて、表面および界面がナノ粒子の安定性に及ぼす影響を調べた。直径8nmのスズ粒子にビスマス原子を蒸着させると、ビスマス濃度の増加とともに固溶体から直接液相へ変化した。それに対して直径約8nmのビスマス粒子にスズ原子を蒸着させると、固液二相共存状態を経て液相に遷移した。しかし、ビスマス側でも粒子のサイズをさらに小さくすると、固溶体から直接液相へ変化した。これらの実験結果を熱力学的観点から考察した。その結果、表面のみならず界面もまた、合金ナノ粒子の熱力学的安定性を左右する重要な因子であることがわかった。すなわち、結晶異相界面の存在は、液相を安定化することがわかった。 次にPb-Sn系合金を用いて、ナノ粒子における固溶体と液相の相対的安定性を検討した。純Pb粒子上へのSnの蒸着によって平均直径約15nmの合金粒子を形成した。それらの粒子の平均組成はPb-56at.%Snであることを確認した。このことから直径約15nmのPb粒子へのSnの固溶度はバルクの5倍以上に増加することが分かった。系のナノサイズ化にともない、こうした高溶質濃度の固溶体とアモルファス相とが相互に安定性を競いながら合金構造を支配してゆくことが分かった。 以上より、合金ナノ粒子においては、(1)表面および界面の存在によりバルクの場合に比べて液相が結晶相よりも相対的に安定化される、(2)その結果、合金系によっては、共晶温度がガラス遷移温度以下にまで低下することとなり、この両温度の間の温度範囲にわたっては、熱力学的に安定なアモルファス固相が出現することが分かった。
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