研究代表者らは反平行結合フリー層を用いるとスピン反転磁場が素子サイズに依存しないことを見出し、すでに報告している。また、反平行結合素子はその体積効果から耐熱性にも優れることが期待される。一方、新しいスピン反転法としてスピン注入磁化反転技術が開発され、ナノ磁性素子の磁化反転に有効であることが理論的、実験的に明らかにされている。このような背景から、スピン注入磁化反転技術を反平行結合素子(SyAF)に適用すれば、低電力でスピン反転が可能であり、かつ耐熱性に優れるナノ磁性素子を提供できる可能性が高いと考え研究を行った。 素子はCo_9Fe/Ru/Co_9FeSyAF膜をフリー層とするCPP-GMR素子であり、熱酸化Si基板上にスパッタで成膜後、電子ビームリソグラフィとArイオンエッチングを用いてサブミクロン素子を作製した。Ru膜厚は0.45nm一定とした。また、比較のためCo_9Fe単層をフリー層とする素子も作製した。SyAFは見かけ上膜厚が厚くなるのでスピン注入磁化反転には不利になると考えられたが、Ruのスピンフィルタ効果が有効に作用し、臨界電流磁場はむしろ低減することを見出した。一方、素子のアスペクト比(長さ/幅)を変えて保磁力の磁場スイープ速度依存性を測定し、その勾配から熱揺らぎ因子KuV/k_BTを評価した。その結果アスペクト比が小さくなるとSyAFの方が熱揺らぎ耐性が大きいことがわかった。以上の結果、当初の期待どおりSyAF素子は大容量MRAMなどのナノ磁性素子として有効であることが実証できた。
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