研究概要 |
ミトコシドリア機能維持の中心的プロセスは,サイトゾルで合成されたミトコンドリアタンパク質前駆体のミトコンドリア移行である。本研究では,酵母ミトコンドリアタンパク質のフラックスの管制と制御の仕組みの全体像の解明をめざした。 酵母から全RNAを単離して,in vitroで転写・翻訳反応を行った。放射性同位元素標識された翻訳産物を,単離した野生型ミトコンドリア,Tom70欠失ミトコンドリアとインキュベートすることによりミトコンドリア内に取込ませた。その後二次元電気泳動によりミトコンドリアに取込まれたタンパク質を分離し,別途作製したミトコンドリアタンパク質の二次元電気泳動パターンと比較することにより,各スポットを特定のミトコンドリアタンパク質に帰属した。野生型ミトコンドリアとTom70欠失ミトコンドリアの結果を比較することにより,受容体Tom70に依存してミトコンドリアに移行するタンパク質の網羅的同定に成功した。 ミトコンドリア外膜でタンパク質の通る穴をつくるTom40とその中をヒモのようになって通り抜けるタンパク質の空間的な位置関係を,「部位特異的光架橋法」で解析した。その結果,通過中のタンパク質の90アミノ酸分の長さの配列が穴の中にあることが分かった。タンパク質のヒモが自分で折れたたまれて立体構造をきちんと作れる場合は穴から出て行くが,きちんと折れたためないうちは,穴の中に留まることが示唆された。 このような性質は,細胞の中の水溶液中で合成されたタンパク質の立体構造形成を助ける「分子シャペロン」に似ている。実際Tom40は変性タンパク質を保護し,凝集を防ぐことがわかった。さらにTom40には,タンパク質が穴に入る前に立体構造を作ってしまった場合は,穴に入るためにそれをヒモのようにほどくアンフォルダーゼとしての機能をもつ可能性も考えられた。
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