研究概要 |
ミトコンドリア機能維持の中心的プロセスは,サイトゾルで合成された500〜1000種類に及ぶミトコンドリアタンパク質前駆体のミトコンドリア移行である。ミトコンドリアは外膜,膜間部,内膜,マトリクスの4つの区画から構成されているので,ミトコンドリタンパク質の流れ(フラックス)は各区画に向かう4つの流れに分岐する。本研究では,酵母ミトコンドリアタンパク質のフラックスの管制と制御の仕組みの全体像の解明をめざした。ミトコンドリアへのタンパク質輸送を担う新規トランスロケータ構成因子としてTom38,Tim13,Tim40,Tim15,Tim41の5つを新たに発見した。これらの新因子の機能を明らかにするなかで,ミトコンドリアへのタンパク質輸送経路は従来考えられていた以上に複雑で,局在化と膜への組み込みが複数のトランスロケータの協力により,精妙にコントロールされていることを明らかにした。フラックスの制御においては,フラックスの分岐点において,基質タンパク質の分岐シグナルを正しく認識し,正しい経路に振り分けることが重要である。外膜受容体Tom20がミトコンドリアタンパク質取り込みの特異性を担うだけでなく,外膜透過の効率上昇にも関わること,内膜のTim50がプレ配列受容体として機能すること,内膜のトランスロケータTIM22複合体経路の基質がもうひとつのトランスロケータTIM23複合体にも認識されるシグナルを持っていることを見いだした。さらに,ミトコンドリアへのタンパク質フラックスの駆動力が何かという問題も,残された大きな問題の一つである。トランスロケータのチャネルそのものに,シャペロン的性質があり,そのことがタンパク質のアンフォールディングを駆動しうる,ことを発見した。
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