研究概要 |
蛋白質分泌装置の駆動ATPaseであるSecAは、分泌モニター蛋白質SecMによって巧みな制御を受けていることを発見した。SecAは、細胞質にも膜に結合した状態でも存在し、複数のオリゴマー構造をとり得る特異なタンパク質であり、大きな構造変化を伴ってポリペプチド鎖の動きを駆動する。一方、新生ポリペプチドはリボソームのトンネルを通って細胞質に出現するが、このトンネルは合成されたポリベプチドと相互作用しないような設計になっているとされる。しかし、secM-secAオペロンの先頭の遺伝子産物であるSecMはそのC末端付近に特異な「アレスト配列」をもち、それが翻訳途上でトンネル構成成分と相互作用することにより自らの翻訳伸長を停止する。この現象をin vitro蛋白合成系で再現することに成功し、secM mRNA上におけるリボソームの停止位置を決定し、またアレスト状態のpolypeptidyl-tRNAを分析した。その結果、リボソームのAサイトには166番Flのコドンに対応するprolyl-tRNAが結合しており、Gly165との問にペプチド結合が形成されていないことがわかった。翻訳アレストを起こしたリボソームの存在によりmRNA上のsecA遺伝子のリボソーム結合サイトが露出し,別のリボソームによるSecAの翻訳が可能となる。SecM自身分泌蛋白質であり、その合成途上鎖が分泌装置によって「引っ張られる」と翻訳停止が解除される。このように細胞の分泌活性がモニターされ、分泌活性の低下はSecAの合成を促す。SecMがリボソームトンネル内で翻訳伸長アレストを起こす性質を持つことは、SecAの基底レベルの発現、したがって大腸菌の生存、に必須であり、またSecAの翻訳が細胞の分泌活性に応答して制御を受けることにも必須であることを明らかにした。さらに、SecM翻訳複合体が膜にターゲットされる仕組みによって、同一mRNAの下流域でコードされるSecAが膜分泌装置の近傍で合成されることが保証され、新生SecAが直ちに働くことができるような構造をとりやすくなるとの全く新しいSecA機能の制御機構を発見した。
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