研究概要 |
真核生物染色体の複製開始領域には、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)活性の低いM期後期からG1期にpre-Replicative Complex(pre-RC)が形成される。次に、CDKが活性化するG1期後期に、多数の複製タンパク質がpre-RCに集合し、複製が開始する。しかし、CDKに依存した複製タンパク質の集合機構は殆ど分っていなかった。それは、複製開始におけるCDK基質及びCDK依存の素過程の同定が不十分であったためである。そこで本研究では、まず複製開始における必須なCDK基質が酵母ではSld2とSld3であることを明らかにした。CDKにリン酸化されたSld2とSld3は、ともにDpb11に結合する。この結合が複製開始に必須であり、両結合をバイパスするとCDK非依存的に複製が開始する。Sld2は11ヶ所のCDKリン酸化モチーフを持ち、その中でThr84のリン酸化がDpb11との結合に必須であった。そしてSld2の他のリン酸化は,Thr84のリン酸化レベルを調節し、複製開始の微調整に働くことが分った。一方Sld3は、新規因子Sld7と複合体を形成して働くことが分かった。次ぎに、CDKに依存した過程としてpre-Loading Complex(pre-LC)の形成を見つけた。pre-LCはDNAポリメラーゼε、GINS、Sld2、Dpb11を含む新たな複合体で、その形成はCDK活性に依存するが、複製開始領域への結合やpre-RCには依存しない。以上のことから、1)CDKによりリン酸化されたSld2がDpb11と結合するとpre-LCが形成する、2)Sld3はG1期から複製開始領域に結合しているので、開始領域上でCDKによりリン酸化される、3)リン酸化されたSld3はDpb11との結合を介してpre-LCを開始領域に引き寄せる、ことにより複製が開始すると考えている。
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