研究課題
本研究では、WntやFGFシグナルの機能多様性を生み出す分子機構を解析する方法論の確立を目指して、これらシグナルによって発現が調節される遺伝子(以下、標的遺伝子と呼ぶ)の同定と機能の解析を行った。これまでWntシグナルの標的遺伝子を少なくとも4つ同定したが、その一つは転写制御因子CRTR1をコードし、腎臓や唾液腺などの外分泌性器官の導管部で特異的に発現していた。CRTR1機能欠損マウスでは、これら器官の導管部の成熟に異常が認められ、生理的な機能も損なわれていた。今年度はさらに分子レベルでの詳細な解析を行い、CRTR1が異なる器官の導管部の成熟過程で一群の共通の遺伝子の発現を制御することを見い出した。したがって、WntシグナルはCRTR1の発現を介して、導管の成熟に必須な一群の遺伝子の発現を制御するものと考えられた。また、FGFの標的遺伝子として、ショウジョウバエのhairyタンパク質と類似なher13.2をゼブラフィッシュにて同定した。her13.2の発現は未分化体節細胞でFGFにより特異的に誘導され、体節の周期性獲得に必須であることが明らかになった。以上の結果より、シグナルの機能の多様性を分子レベルで解析する上での基盤が整った。一方、転写調節因子T(Brachyury)の発現はWntやFGFシグナルにより原口周囲に特異的に誘導される。我々は原口周囲以外にもこれらシグナルが活性化している中脳後脳境界部でTを異所的に発現するゼブラフィッシュ突然変異体を複数発見した。これら変異体ではシグナルによる標的遺伝子の誘導機構に異常があると考えられる。今年度は、表現型が明瞭な3系統に着目し解析を進めたところ、すべての系統においてこの表現型が母性遺伝することが示された。したがって、シグナルの標的遺伝子の発現特異性には、受精卵中に存在する母親由来の因子が必要であることが初めて明らかになった。
すべて 2005
すべて 雑誌論文 (6件)
Genes & Development 19
ページ: 1156-1161
Developmental Cell 8
ページ: 587-598
Developmental Cell 9
ページ: 735-744
Genes to Cells 10
ページ: 919-928
Developmental Dynamics 233
ページ: 484-495
Science 309
ページ: 2067-2070