研究概要 |
1.ショウジョウバエ胚発生期の肢前駆細胞の移動と形態変化を観察するために、GFP融合タンパク質を用い共焦点タイムラプス観察により時間軸に沿って可視化した。上皮細胞の膜構造を可視化するsqh-moesin-GFPを併用することで上皮細胞に対する肢前駆細胞の移動度を個々に追跡することが可能となった。解析の結果、翅細胞の移動度は上皮細胞層の他の細胞の移動度と等しいことが明らかになった。このことは肢前駆細胞の初期の移動に関するこれまでの研究から推測されてきたアクティブな細胞移動の存在を支持しない。 2.肢前駆細胞の後期の移動と再集合に関して、翅細胞が基底側に移動する過程(陥入)を調べた。陥入に先立って微小管が基底側に伸長するとともに、アクチンの強い集積とフィロポディアの形成が翅細胞の基底側に見られたことから、基底側に存在する他の組織との相互作用が示唆された。近接する組織のマーカーを用いて調べた結果、気管前駆細胞との付着が陥入の初期過程で起きることを発見した。 3.気管前駆細胞との付着が翅細胞の移動に与える影響を調べる目的で、気管形成が異常となるtrachealess,breathles,branchlessなどの突然変異体を用いて解析を行った。これらの突然変異体では野生型と比べて翅細胞の後方への移動度が明らかに減少した。一方気管に活性化型Racを強制発現させた場合、またアポトーシス活性を高めた場合も同様であった。すなわち翅細胞の移動に際してはその方向性をガイドする重要な役割を気管が果たしていることが示唆された。 4.異種組織である気管との付着状態が後の翅のパターニングに何らかの役割を担っている可能性について調べるため、マイクロポイントレーザー照射システムを用いて気管細胞を選択的に除去する実験系を確立した。次年度はとれを用いて翅原基の背腹軸および遠位・近位の決定に与える影響を明らかにしていく予定である。
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