研究概要 |
最近,生理人類学の分野では,近赤外線による脳血流測定法が非侵襲的に脳活動を測定する手法として,急速に普及しつつある。本研究では,様々な状況における脳血流計測を行い,生理的多型性の視点より脳活動と脳血流との関係および快適性やストレス評価法としての脳血流測定の妥当性を検討することを目的としている。本研究の実施に当たっては,被験者に実験内容の説明をした上で,実験に協力する旨の同意書を得た。 1.計測結果の解釈には,未だに不明の点もあり,本研究では,まず近赤外線を用いた脳内酸素濃度測定による前頭部脳活動測定結果の解釈について検討を行った結果,酸素濃度変化は5つのパターンに分類されることが分かった。次に計測結果の再現性についても検討を行った。 2.これまでの計測方法は,脳活動の相対的比較によるものであり,絶対値計測のデータは蓄積がなく,これまで脳活動の定量化ができなかったため,基礎的データを収集し,前頭部脳血流の安静時絶対値の蓄積を行った。さらに,ゲームを行っているときの前頭部脳内酸素濃度の絶対値測定を行うことにより,前頭部脳活動とゲームとの関係を調べた結果,左右前頭部で活動レベルが異なること,ゲーム中に絶対値がほとんど変化しないか,減少することがわかった。これは、PETやfMRIを用いた研究結果と一致していた。 3.工業製品の情報機器操作時の前頭部脳活動測定およびパフォーマンスの測定から,女性は男性と比較して複数の項目から正しいものを速く選択でき、脳活動レベルも低かったことから,操作時間および前頭部脳活動レベルに性差があることがわかった。 4.安静時,自動車運転時の前頭部酸素濃度の絶対値計測を行い,若年者と高齢者の自動車運転時の前頭部脳活動を比較した結果,高齢者では運転時の脳活動変化が少なく,若年者では運転経験が少ない場合に,脳活動の変化が大きいことがわかった。 生理的多型性について検討するには,前頭部脳活動以外の生理反応の計測を同時に行う必要はあるが,前頭部脳活動の絶対値計測は現代のハイテク社会環境における適応能力としてのテクノアダプタビリティ評価に応用可能であることが明らかとなった。
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