研究概要 |
本研究では、栄養制御を受ける転写因子peroxisome proliferator-activated receptor(PPAR)を鳥類の代謝特性を規定する主要因であるとの視点から、鶏におけるPPARの機能特性を明らかにするとともに、栄養素-遺伝子発現調節による高品質食肉生産性の向上の基盤を構築する。本年度は、鶏の脂肪細胞および個体におけるPPAR(特にγ)の機能解析を中心に行なった。 (1)鶏骨格筋組織におけるエネルギー制御遺伝子のPPARによる制御 非ふるえの熱生産を担うミトコンドリアの脱共役を制御する熱産生制御遺伝子(UCP,ANT)は、PPARγの促進因子であるPGC-1αにより制御されていることが明らかとなった。すなわち、寒冷暴露によりUCP・ANT mRNA発現が誘導され、この発現誘導にPPARが関与している可能性が示唆され、PPARはエネルギー代謝のregulatorの一つとして機能していることが明らかとなった。 (2)脂肪細胞における脂質代謝制御遺伝子発現のPPARによる制御 鶏前駆脂肪細胞を脂肪酸(オレイン酸),DEX,IMX,INSを含んだ鶏脂肪細胞分化誘導培地に置換すると、PPAR mRNA発現の亢進が認められ、9時間後にその発現が最大となり、その後発現量は減少した。さらに、PPARγのアゴニストを培地に添加すると鶏脂肪細胞の分化が促進され、逆にアンタゴニストを添加すると分化は抑制された。一方、哺乳動物でPPARγと同様に分化制御転写因子として機能しているC/EBPαの発現亢進は、分化マーカーであるaP2より遅く、鶏では分化制御の主要因子とはなっていない可能性が示唆された。すなわち、PPARγが鶏脂肪細胞分化のマスターレギュレーターであることを明示できた。 (3)鶏インスリン抵抗性のPPARによる制御 PPARγの特異的リガンドであるtroglitazoneを経口投与した鶏では、インスリン抵抗性が改善され、血中グルコース濃度も低下した。すなわち、PPARγは鶏糖代謝調節機構に関与し、インスリンシグナル制御機構に作用している可能性が示唆された。よって、PPARγは種特異的な鶏糖代謝を調節できる制御点であることが明らかとなった。
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