研究概要 |
レトロゾールは第3世代のアロマターゼ阻害薬で,現在乳がん治療における世界標準薬であり、国内でも輸入承認申請中である.この酸化的代謝に関与するチトクロームP450分子種はCYP3A4とCYP2A6とする学会抄録があるが,詳細な役割は不明である.そこで,レトロゾール酸化に関与するP450分子種とその遺伝的多型の影響を調べた.市販のP450発現系,欧米人肝とCYP2A6遺伝子型を明らかにした日本人肝ミクロゾームを用い,カルビノール代謝物をHPLCで測定してレトロゾール酸化酵素活性を調べた.ヒト組換えCYP2A6とCYP3A4にレトロゾール酸化酵素活性が認められ,CYP2A6が低Km酵素,CYP3A4が高Vmax酵素であった.ヒト肝ミクロゾームによるレトロゾール酸化酵素活性は,臨床血中濃度付近では,CYP2A6の指標酵素活性であるクマリン7-水酸化酵素活性と高い相関関係を示したが,その10倍の基質濃度では,CYP3A4指標酵素活性との間に相関関係が認められた.臨床血中濃度付近における日本人肝ミクロゾームによるレトロゾール酸化酵素活性は,CYP2A6*4(全欠損型変異)のホモ接合体では検出されなかったことをはじめ,CYP2A6遺伝子多型との関連が認められた.高基質濃度でのヒト肝ミクロゾームのレトロゾール酸化酵素活性は,抗ヒトCYP3A4抗体による阻害作用が認められた.以上のことから,レトロゾール酸化酵素活性に個人差が認められ,遺伝的多型を示すCYP2A6の寄与が大きいことが判明した.臨床血中濃度域では日本人に高頻度に認められるCYP2A6遺伝子変異のレトロゾール代謝への影響が予想されるが,高基質濃度領域においてCYP3A4による代償的代謝反応が進行することが示唆された.
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